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マッチをもう一本いっぽんかべでこすりました。 するとふたたあかるくなり、その光輝こうきなかにおばあさんがっていました。 とてもあかるくひかりはなち、とても柔和にゅうわで、あいにあふれた表情ひょうじょうをしていました。

「おばあちゃん!」とちいさなおおきなこえをあげました。 「おねがい、わたしをれてって! マッチがえつきたら、おばあちゃんもってしまう。 あったかいストーブみたいに、おいしそうな鵞鳥がちょうみたいに、 それから、あのおおきなクリスマスツリーみたいに、おばあちゃんもえてしまう!」 少女しょうじょいそいで、ひとたばのマッチをありったけかべにこすりつけました。 おばあさんに、しっかりそばにいてほしかったからです。 マッチのたばはとてもまばゆいひかりはなち、ひるひかりよりもあかるいほどです。 このときほどおばあさんがうつくしく、おおきくえたことはありません。 おばあさんは、少女しょうじょをそのうでなかきました。 二人ふたりは、かがやひかりよろこびにつつまれて、たかく、とてもたかび、 やがて、もはやさむくもなく、空腹くうふくもなく、心配しんぱいもないところへ――かみさまのみもとにいたのです。

けれど、あの街角まちかどには、夜明よあけのむころ、かわいそうな少女しょうじょすわっていました。 薔薇ばらのようにほおあかくし、くちもとには微笑ほほえみをかべ、かべにもたれて――ふる一年いちねん最後さいごよるこごんでいたのです。 そのもののマッチをたくさんち、からだ硬直こうちょくさせてそこにすわっておりました。 マッチのうちのひとたばはえつきていました。 「あったかくしようとおもったんだなあ」と人々ひとびといました。 少女しょうじょがどんなにうつくしいものをたのかをかんがえるひとは、誰一人だれひとりいませんでした。 少女しょうじょが、あたらしいとしよろこびにち、おばあさんといっしょにすばらしいところへはいっていったと想像そうぞうするひとは、誰一人だれひとりいなかったのです。

おわり

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