十日とおかほどたって、ごんが、弥助やすけというお百姓の家の裏を通りかかりますと、そこの、いちじくの木のかげで、弥助の家内かないが、おはぐろをつけていました。鍛冶屋かじや新兵衛 しんべえの家のうらを通ると、新兵衛の家内が髪をすいていました。ごんは、
「ふふん、村に何かあるんだな」と、思いました。

なんだろう、秋祭かな。祭なら、太鼓や笛の音がしそうなものだ。それに第一、お宮にのぼりが立つはずだが」
 こんなことを考えながらやって来ますと、いつのにか、表に赤い井戸のある、兵十の家の前へ来ました。その小さな、こわれかけた家の中には、大勢おおぜいの人があつまっていました。よそいきの着物を着て、腰に手拭てぬぐいをさげたりした女たちが、表のかまどで火をたいています。大きななべの中では、何かぐずぐず煮えていました。
「ああ、葬式だ」と、ごんは思いました。
「兵十の家のだれが死んだんだろう」

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 おひるがすぎると、ごんは、村の墓地へ行って、六地蔵ろくじぞうさんのかげにかくれていました。いいお天気で、遠く向うには、お城の屋根瓦やねがわらが光っています。墓地には、ひがんばなが、赤いきれのようにさきつづいていました。と、村の方から、カーン、カーン、と、かねが鳴って来ました。葬式の出る合図あいずです。
 やがて、白い着物を着た葬列のものたちがやって来るのがちらちら見えはじめました。話声はなしごえも近くなりました。葬列は墓地へはいって来ました。人々が通ったあとには、ひがん花が、ふみおられていました。
 ごんはのびあがって見ました。兵十が、白いかみしもをつけて、位牌いはいをささげています。いつもは、赤いさつまいもみたいな元気のいい顔が、きょうは何だかしおれていました。
「ははん、死んだのは兵十のおっかあだ」
 ごんはそう思いながら、頭をひっこめました。

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その晩、ごんは、穴の中で考えました。
「兵十のおっ母は、とこについていて、うなぎが食べたいと言ったにちがいない。それで兵十がはりきり網をもち出したんだ。ところが、わしがいたずらをして、うなぎをとって来てしまった。だから兵十は、おっ母にうなぎを食べさせることができなかった。そのままおっ母は、死んじゃったにちがいない。ああ、うなぎが食べたい、うなぎが食べたいとおもいながら、死んだんだろう。ちょッ、あんないたずらをしなけりゃよかった。」

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